農業にとって、水は光、土と並んで重要な生産基盤です。
水がなければ作物は育つことができません。
しかし、一方で、大雨によって畑が冠水すると、ほとんどの作物で何らかの障害が出、枯死してしまうこともあります。
もちろん、堤防の決壊など、どうしようもない洪水による場合は、なかなか被害を免れることはできません。
しかしながら、事前にある程度雨を予知できれば、自分の畑の作物をある程度冠水から守ることは可能です。
この記事では、大雨の兆候を予報からどのように知るか、事前対策としてどのようなことを行うとよいかについて、説明します。
また、冠水などの被害にあったときに必要な事後対策についても、触れていますので、万一の際には参考にしてください。
なお、台風については基礎知識と防災情報の活用を別途解説していますので、そちらも参考にしてください。
大雨はどんなときに降るか
大雨注意報はいつ発表されているか
気象庁のデータによれば、1年の中で大雨注意報・警報・特別警報の8割以上は、夏(6~8月)と秋(9~11月)に発表されています。
ということから、原因となっている気象現象は、台風、梅雨または秋雨前線が中心と考えられます。
また、近年増えてきている、線状降水帯など積乱雲による突発的な雨も、主として夏から秋に発生しています。
まずは、この時期の天候の変化に注意しておくことが必要でしょう。
大雨警報級の雨を予知するには
梅雨末期や台風シーズンには、ほぼ毎年のように大雨警報が発表されるクラスの大雨に見舞われます。
こうした雨を事前に知っておくにはどうすればいいでしょうか。
5日先までの進路を気象庁が予報している台風の場合は、かなり早くから、いつ頃最接近し、どのようなことが想定されるか、想像がつきます。
ですが、梅雨前線が北上してきて大雨が降る場合や、大気が不安定な状況で積乱雲が発生する場合などは、天気予報では、通常前日にならないと解説してくれません。
こういう時に参考になるのが、気象庁HPの「早期注意情報(警報級の可能性)」です。
この情報は、当日から5日以内に、大雨、大雪、暴風、波浪、高潮の警報が発表される可能性を府県別に表したもので、各県の警報・注意報のページで見ることができます。
[高]は警報が発表される可能性が高く、[中]は警報級の事象が起こる可能性があることを示し、それぞれ濃い赤と薄い赤で占めされます。
2023年3月から日本地図で全国一覧が提供されるようになり、さらに使い勝手が良くなりました。
シビアウェザーが予想されるときは、早目にこのページを見ることを頭に置いておいてください。
もちろん、「気象情報」のページも合わせてみてください。
気象情報については、こちらもご覧ください。
大雨の事前準備
水田で水稲作付け中の場合
水稲は基本的に冠水には強い作物です。
土砂や流木などが流入しなければ、活着した苗であれば、水没に近い状態でも復活することは可能です。
ですが、病害虫の発生などを考えると、水没させないことが最善の策です。
そのためには、事前に排水路の詰まり等の点検・補修を行い、冠浸水時の速やかな排水に備えておくことが一番です。
また、強い雨によってあぜが崩れたりしないよう、事前にチェックしておくことも大切です。
畑作物(果樹を除く)を露地ほ場で栽培している場合
種類によって冠水に対しての耐性に違いはありますが、大豆や野菜、花き類は一般に冠水には弱く、排水に努める必要があります。
暗渠などがあれば別ですが、通常はやはり排水対策を第一に考える必要があります。
そのため、まず排水路の点検をしっかりしておきましょう。
また、畝間を深くし、溝を切って、水が自然に流れるようにしておくことも大切です。
果樹園や傾斜畑の場合
まず、他の作物同様に、ほ場内の冠水を防止するために排水溝などの点検を行い、すみやかに雨水を排水できるようにすることが必要です。
水が溜まりやすい場所があるようなら、排水用の溝を作っておきましょう。
また、地盤が弱いほ場や、人家に近いほ場では、土砂流亡を防止するために、土のうや杭によるほ場の補強を行っておくことも必要です。
施設の場合
施設の立っている場所が、冠水や浸水の恐れのあるところでは、施設やほ場周辺の点検を行うとともに、排水路の清掃・点検を行いましょう。
また、天窓自動開閉装置等により、不用意に天窓や換気口が開閉しないように、スイッチを手動に切り替えるなどの措置をとっておきましょう。
さらに、施設での漏電やショートが起こらないよう、防水関係の点検を行うとともに、必要に応じて発電機を用意しておくことも有効です。
大雨の事後対策
水稲の場合
まず、当然のことながら、浸・冠水したほ場はできるだけ早く排水することが第一です。
そののち、動噴などを用いて、葉に付着した泥土を退水後できるだけ早く洗い、取り除いて、光合成の回復を図ります。
また、冠水後は、いもち病、白葉枯病などが発生しやすいので、予防的に農薬を散布しておいたほうがいいでしょう。
但し、この場合は、粒剤の散布では効果が劣るので注意してください。
台風などの潅水により、収穫直前の水稲で、稲体の倒伏や穂発芽の発生などにより品質の低下が懸念される場合には、可能な限り速やかに収穫作業を開始することが必要です。
もし、水稲が倒伏しているようなときは、冠水しないように株起こしを行っておきましょう。
特に、登熟の進んだ水稲では、穂が水没したり、株が倒伏した状態が長く続くと、穂発芽や稔実歩合、玄米の品質を著しく低下させるので、速やかな排水と株起こしを行ってください。
被害籾については、仕分けを行い、乾燥、調製作業を実施するようにしましょう。
畑作物(果樹を除く)を露地ほ場で栽培している場合(傾斜畑含む)
他と同様、うね間に長時間滞水しないように速やかに排水に努め、湿害を防ぎます。
株元が露出したり土壌が固結した場合は天候の回復を待って株元への土寄せを行い、土を柔らかくしましょう。
うね面を軽く中耕することで通気性をよくするのもよい方法です。
野菜などでは、茎葉が損傷すると病害が発生しやすいので、汚れた葉は噴霧機等によりきれいな水で汚れを落として、その後、殺菌剤等を散布することで、病害の発生を抑えることができます。
残念ながら、被害が大きく回復の見込みがない場合には、ほ場に放置せず、速やかに片づけましょう。
時期によっては、代替作物を選定し、植え替えまたはまき直しを行うことも可能です。
果樹園の場合
冠水状態で長時間放置しておくと樹体の枯死につながりますので、すみやかに排水しましょう。
また、葉などが傷んだ場合は、天気が回復次第、すみやかに殺菌剤の散布するなど、病害の発生対策を行いましょう。
まとめ
ここでは、台風や梅雨前線によるある程度長い時間、まとまった雨量(概ね6時間以上、トータル100mm以上)の大雨に対する農業分野での防災対策についてまとめました。
台風や梅雨前線の雨は、3日ぐらい前からは、早期警戒情報や気象情報で確認できます。
また、線状降水帯についても、気象庁は最低でも半日前には予知できるように、現在検討を進めているようです。
冠水については、雨量の状況にもよりますが、事前に対策をとることで、軽減することは可能です。
また、速やかな事後対策によって、収量や品質の低下をある程度抑えることも可能です。
この記事を参考に、大雨を克服できることを期待しています。
台風の基礎知識はこちらを、台風の際の防災情報の活用はこちらをご覧ください。
台風の強風対策にはこちらもご覧ください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。